JV-Campus運営委員会 日本語教育専門部会Ⅰ
JV-Campus運営委員会の専門部会(日本語教育専門部会Ⅰ)が、海外を対象としたオンライン日本語教育・学習コンテンツに関する調査を実施
JV-Campus運営委員会の専門部会(日本語教育専門部会Ⅰ)が、海外を対象としたオンライン日本語教育・学習コンテンツに関する調査を行った。 本ニーズ調査は、東京外国語大学を含む「ニーズ調査検討委員会」により、2023年7月~9月にかけて実施されたものである。
調査の背景
教育未来創造会議の第二次提言(J-MIRAI)では、2033年までに40万人の外国人留学生受入れを実現することが掲げられている。具体的方策としては、日本への留学機会の創出、教育の国際化の推進、外国人留学生等の高度外国人材の定着率の向上を図ることなどがあげられているが、これらの方策を実行するためには、オールジャパンでの有機的な連携のもときめ細かに対応していくことが急務と考えられる。
特に日本語教育・学習は、留学促進の面でも、外国人留学生の定着を考える上でも欠かすことのできない要素である。本調査においては、コロナ禍によるオンライン教育の進展によって変化した、日本語学習者や教育者のニーズを把握することはもちろんであるが、さらに、留学促進の観点で日本語教育がどのように展開していくことが求められているかにも踏み込んで検討する必要があるとの問題意識のもと調査を行った。
調査目的・概要
本調査では、国内および海外各国・地域において外国人留学生が関係する日本語教育の現状や課題、ニーズを把握する。調査結果は大学・機関等における既存の日本語教育コンテンツ等の利活用や横展開、および新たなコンテンツの開発に役立てることにより、今後のコンテンツの有効活用及び日本留学者の増加に資することを目的としている。
なお、本調査では、多様な日本語教育シーンがある中で、特に大学、大学院への留学に関連するものを前提として検討を行った。
回答数
回答数
回答数
調査方法
2023年8月~9月にオンラインアンケート調査を実施した。アンケート設問数は海外の高等教育機関で日本語教育を担当する教員(海外の日本語教員)と日本の高等教育機関に留学中の学生(留学生)向けが16問、海外の高等教育機関に所属する学生(海外の学生)向けが15問である。
アンケート調査と並行して、2023年7~9月にはインタビュー調査も実施した。対象機関は以下の通りである。
国際交流基金(JF)、日本学生支援機構(JASSO)の有する国内機関と海外事務所13拠点
東京外国語大学が海外での日本語教育・日本教育の拠点として設置したGlobal Japan Office、Global Japan Deskがある海外の高等教育機関7拠点
東京外国語大学留学生日本語教育センターの各代表者
インタビュー調査の対象機関は、文部科学省が2023年5月に発表した「戦略的な留学生交流の推進に関する検討会とりまとめ」において地域戦略の重要性が明示的に言及された地域を中心に、各機関の事業内容と各国のオンライン日本語教育・学習教材の使用・普及状況、地域バランスも考慮の上で選定した。留学生受け入れの重点地域から幅広く回答を得ることができたが、結果として回答者の所在地域は欧州が最も多い。
調査結果:日本留学におけるニーズと課題
留学の目的と意欲
留学の目的は、日本文化への興味も少なくないが、「日本語力を伸ばしたい」と「海外生活や異文化交流を経験したい」と回答する人の方が多い。留学を希望する学生は、留学経験そのものに価値を見出す人が多いと示唆される。また、日本ならではの勉強・研究や就職という実利的な目的を持つ人は多くない。しかし、海外拠点関係者への聞き取りによると、大学で日本語を学んでいる学生の日本への留学意欲はどこの国・地域においても総じて高く、日本で高等教育を受けることや、日本でのキャリアへの興味も見られる。
留学希望者が必要としている情報・サポート
海外の学生からは、漢字や語彙の効率的な学習方法に関する情報や、キャリアに関する情報、大学院に入るための指導教員へのアプローチのしかたを知りたいという意見がある。留学生からは、日本に来る前に習得しておくべきこととして、留学前にもっと漢字を勉強しておくべきだったという声が多く挙がっている。留学初期の生活に関わる日本語や知識を予め知っておきたかったというコメントも見られる。
国内外の日本語教育における課題
学部正規生としての留学を目指す学生の多くが、日本留学試験(EJU)の準備・対策に大きな困難を抱えていることが挙げられている。日本語のみならず、基礎科目の学習を短期間で学ぶのは非常に難しいが、EJUの知識や準備・対策のためのコンテンツも豊富に揃えられているとは言いがたいため、来日前からの準備・対策は容易ではない。出願手続きの日本語および手続きの難解さ、複雑さも課題である。
海外ならではの課題として、大学生の日本語学習について、学んだ知識を生かす場がないこと、学外で日本人と交流する機会がないことがある。教材不足や、紙媒体の教材は高価で入手が難しいという点も多くの教員が指摘している。
調査結果:海外におけるオンライン学習
教員のオンライン教材利用状況
海外の大学のほとんどで、何らかのオンライン授業の実施経験があることがわかった。海外の日本語教員が授業中に使用するオンライン教材・ツールは、「学習支援Webサイト」と「YouTubeチャンネルなどの動画サイト」が最も多いが、その他の教材・ツールも幅広く活用している。特に、NHKやJF等の信頼性の高い教材が多く使用され、ゲーム性のあるアプリを活用している機関もある。使用目的は、「対面授業のサポートとして補助的に使用」する人が最も多い。
学生のオンライン教材利用状況
学生のオンライン教材・ツールの利用経験については、「無料のコンテンツを利用したことがある」という人が海外の学生、留学生ともに70%を超えているが、有料のコンテンツ利用経験者はいずれも20%程度と多くはない。辞書はアプリを、文法学習にはYouTubeの動画を利用している学生も多く、地域によっては現地出身のYouTuberが作成する動画も影響力がある。
利用経験あり
利用経験あり
今後も取り入れると回答
オンライン授業の今後
70%を超える海外の日本語教員が、「オンライン授業を必要に応じて取り入れる」と回答している。海外の大学では対面授業に戻ってきている国・地域が多いが、オンライン授業を部分的に取り入れたり、LMSを引き続き活用したりしている地域もある。
学生は、日本語の効果的な学習スタイルとして、「対面授業をメインとしつつ、オンライン授業を一部取り入れる」と回答した人がいずれも約50%を占め、次いで「対面授業のみ」と答えた人がそれぞれ40%弱である。基本的には語学の授業は対面授業で行うべきで、教室での教師やクラスメートとのやりとりが重要だと考える学生がほとんどだが、オンライン授業のメリットへの言及も多く見られ、今後もオンライン授業やオンライン教材・ツールが更に普及することが見込まれる。
今後に向けた提言
提言 2|大学が新たに作成すべきオンライン日本語教育コンテンツ
アカデミックやビジネスなど分野特定のものが望まれ、レベルとしては中級以上が望まれる
日本語レベルは、ニーズとしては中級までがボリュームゾーンであるが、入門~初級は既に既存の教材・ツールが充実しているため、大学での作成は中級以上を対象にするのが望ましいと思われる。コンテンツは、アカデミックやビジネス等、特定の分野を深く究めた教材のニーズがあると推察される。
自学自習型で、チャレンジ問題を豊富に用意したコンテンツや、定期的・持続的に一定数の問題数が投稿されるコンテンツのニーズも見込まれる。海外の大学で教える教員らによれば、文学、言語学、文化のコンテンツはオンラインでも紙媒体でもあまりないということから、こうしたテーマをやさしい日本語で学べるような教材の制作も検討の余地がある。
難解な日本語を使わずに専門講義を行う動画(やさしい日本語による専門講義)
履修登録、必修・選択等、大学特有の語彙を扱った教材
現役の大学生・留学生の声を盛り込んだコンテンツ。留学促進のための強力なツールにもなり得る。
教材・ツールの普及のために、開発後の運用・メンテナンス体制の十分な想定が必要。コンテンツをリアルタイム更新できる設定も必要であり、インターネット環境が整備されていない地域にも普及させるためには、ダウンロードできる教材の準備や、ブラウザ・アプリのどちらで提供するかを開発段階から検討すべきである。
提言 3|海外への広報の工夫
教師視点、学生視点に分けて、教材の見せ方に工夫する必要がある。広報ツールとしては、現地の言語を用いた積極的なSNS広報に加え、口コミも重要である。学生間や先輩からの口コミ、教師会経由やメーリングリストでの情報発信、対面イベントの広報も効果的である。
海外から多く聞かれたのが、既存のオンライン教材・ツールが多く、それぞれの特徴が見分けづらいという点である。そのため、個別のコンテンツ開発のみならず、オールジャパンで教材を取りまとめ、教材毎の特徴をわかりやすく整理して、世界に発信していくことも重要である。
提言 4|留学促進に向けた連携の可能性
留学促進に向けて、海外からは経済面でのサポートの要望が特に多い。その他、専攻分野の専門用語に対するサポート等、学習面へのサポートが必要だという意見もある。JASSO海外事務所が設置されていない一部のエリアでは、基本的な留学情報にアクセスできていない所もあることがわかった。
J-MIRAIの方策に沿って、留学生を受け入れる現場である大学間の連携だけでなく、関係する省庁、JF、JASSO、およびそれぞれの海外事務所等での踏み込んだ連携協力のもと、海外の日本語学習希望者、日本語教育機関のニーズに合ったコンテンツをオールジャパンでさらに提供できるようになれば、今後日本への留学希望者の増加やコンテンツの有効活用にも資することが期待される。
※本調査は、調査時期等の関係上、重点地域は網羅しているもののすべての国地域別を網羅するものとはなっていない。特定の国地域に関するニーズ等、本調査が契機となり、さらなる個別具体のニーズ把握への問題提起になることを切に願う。




