AI時代の「教育×ビジネス」は何を生むのか? ——産業界・教育界のトップランナーが語る、現場発のソーシャルインパクト【JV-Campusレポート】
AI時代の「教育×ビジネス」は何を生むのか?
——産業界・教育界のトップランナーが語る、現場発のソーシャルインパクト【JV-Campusレポート】
2026年2月20日(金)、JV-Campus クロスオーバーイノベーション Vol.2「未来を拓く 教育×ビジネス 共創サミット」が、立命館東京キャンパス(サピアタワー8F)にて対面で開催されました。

今回のテーマは「AIソーシャルインパクトを生み出す両利きの知性」。
「産業界と教育界はなぜ”同じ言葉”を使いながらすれ違うのか?」
「現場で生まれるクロスオーバーの価値とは何か?」
モデレーターに株式会社エムエスディの北島大器氏を迎え、JV-Campusプロジェクトリーダー・筑波大学教育推進部教授の大庭良介氏、一般社団法人STEAM JAPAN代表理事/株式会社Barbara Pool代表取締役の井上祐巳梨氏、デロイトトーマツ グループ マネージングディレクターの吉田圭造氏が登壇し、教育と産業の交差点から生まれるリアルなソーシャルインパクトについて、熱い議論が交わされました。
本記事では、そのエッセンスを凝縮してお届けします。
1. 開会:「クロスオーバー」の意味を問い直す
モデレーターの北島氏は冒頭、自身がビジネスデザインの現場で日常的に経験する「異なるセクター間の言語の違い」について言及しました。行政・民間・教育機関——同じ日本語で「予算」と言っても、意味合いがまったく異なることがある。しかし、その調整を乗り越えて分かり合えたとき、大きなインパクトが生まれるという実感がある、と語りました。
「今日のサミットは、登壇者と会場の皆様と共に作り上げる共創の場です。皆さんのユニークな発想を題材に、何か持ち帰っていただきたい」——この言葉が、サミット全体のトーンを方向づけました。
2. JV-Campusとソーシャルインパクト事業の全体像——大庭良介教授

最初に登壇した筑波大学教育推進部の大庭教授は、まずJV-Campusの紹介映像を投影した後、日本の高等教育が直面する構造的課題を率直に提示しました。
少子化と「知の総和」——大学を減らすだけでは解決しない
京都のノートルダム女子大学が2029年に廃止予定とされるなど、大学の経営難が相次いで報じられる中、大庭教授はこう問いかけました。「大学が潰れるから減らせばいいのか。それは対症療法に過ぎない」。中央教育審議会の答申にもあるように、国力の維持・向上には「知の総和=人数×能力」の向上が不可欠であり、大学を減らすのではなく、知の総和を維持しながら質と規模の両立を図る必要があるというのがその主張です。
3つの解決策とJV-Campusの位置づけ
大庭教授は3つの方向性を示しました。第一に、海外からの優秀な人材をもっと日本に呼び込むこと。第二に、日本の人材を海外に送り出して能力を磨くこと。そして第三に、限られた教育リソースを大学間で共有すること。この3つの交差点に位置するプラットフォームこそが、2022年3月に開設されたJV-Campus(Japan Virtual Campus)です。
JV-Campusは文部科学省の支援のもと、132を超える大学・団体が参画する日本初の国際的オンライン教育プラットフォームであり、訪問ユーザーは40万人を突破、LMS学習登録者数は約8,000人に達しています。アクセスの65%は海外から(アジア約40%、中南米14%、ヨーロッパ5.5%など)で、まさに日本の高等教育の国際的な「玄関口」として機能しています。
「多文化共修」と企業連携——ソーシャルインパクト事業の核心
続いて大庭教授は、文部科学省の「大学の国際化によるソーシャルインパクト創出支援事業」を紹介しました。そのキーコンセプトは「多文化共修」——日本人学生と外国人学生が、それぞれの文化的多様性を活かし、地域社会の課題解決に共に取り組む学びの形です。
筑波大学の事例として、台湾の国立成功大学および三井不動産と連携した「ららぽーと活性化プロジェクト」や、インド工科大学グワハティ校の学生を招いた「つくば市・みずほの村市場での持続可能な農業エコシステム構築」が紹介されました。PBL形式で企業とも連携しながら社会実装を目指すプロジェクトであり、複数の大学がこの事業に参画しています。
大庭教授は企業にとってのメリットも強調しました。「従来の面接やブース型の説明会では互いの表面部分しか見えない。しかし、実際の課題に共に取り組むことで、学生の行動力・思考プロセス・協働姿勢を可視化できる」——産学の新たなマッチング手法としての可能性が示されました。
3. STEAM教育の最前線——井上祐巳梨氏(STEAM JAPAN / Barbara Pool)

続いて登壇した井上祐巳梨氏は、クリエイティブ人材育成からSTEAM教育の推進へと至った自身のキャリアを紹介しました。2018年頃、「STEAM education」と英語で検索すれば膨大な情報があるのに、日本語ではほとんどヒットしないという情報格差に衝撃を受けたことが、STEAM JAPANというメディアを立ち上げた原点だったと語ります。
渋谷区・大分県——自治体との連携事例
井上氏が紹介した事例の中でも注目を集めたのは、渋谷区の「午後の授業がすべて探究」という大胆な改革です。2024年4月から渋谷区の公立学校で午後の授業をすべて探究学習に転換するという全国的な改革で、「じゃあ現場はどうするのか」という具体的な課題に対して、企業と学校をつなぐ仕組みを構築してきたのが井上氏の取り組みです。子どもたちが自分たちの街をフィールドにして、企業と連携しながら様々な学びを実践しています。
大分県では県全体でのSTEAM教育を展開しており、高校生を対象に半年間の課題探究基礎講座を実施。データサイエンスやAI活用なども含めた実践的な学びを通じて、課題発見力と解決力を備えた生徒が着実に育ちつつあるといいます。
地域格差と「夢を諦めさせない教育」への挑戦
モデレーターの北島氏から「先進的な自治体とそうでない地域の温度差にどう対処しているのか」と問われた井上氏は、「地域格差が出始めすぎている」という危機感を率直に語りました。首長の意識によってSTEAM教育の導入状況が大きく異なる現実があり、先行する自治体の取り組みを横展開しつつも、その格差は深刻な課題であると述べました。
文部科学省の高校教育担当者が語った言葉として、「夢を諦めさせる教育は終わりにしよう。個性を伸ばしていく教育に変えよう」というメッセージが出されていることにも触れ、全国の中高生による社会課題解決を表彰するSTEAM JAPAN AWARDを今年で6年目として継続していることを紹介しました。
4. パネルディスカッション——吉田圭造氏を交えた三者対話

後半は、デロイトトーマツ グループ マネージングディレクターの吉田圭造氏をパネリストに加えた三者ディスカッションへと移行しました。吉田氏は、国内外において行政や民間企業と連携し、多様な局面で教育支援を行う等の経験を持つ、教育とビジネスの交差点を体現する人物です。
グローバルに見た高等教育の課題
吉田氏は「大学の価値」の再定義、学生体験の向上、ビジネスモデルの転換、テクノロジー活用、そして産学連携の新しい形——これらは日本だけでなく世界共通の課題である事を指摘し、同時にJV-Campusのような仕組みが果たしうる役割の大きさを浮き彫りにしました。
「ポスターを作って終わり」では育たない——探究学習の質をめぐる議論
ディスカッションの中で特に白熱したのが、探究学習の質をめぐるやり取りでした。大学側からは「学生がポスター作成で終わってしまい、本当の能力が育っていないケースが多い」という率直な問題提起がなされました。
これに対し井上氏は、米国のHigh Tech High(ハイテックハイ)の例を引き、「ゴミになるものを作るな」という教育哲学を紹介。ポスターではなく、アプリ開発や実際のサービスなど、アウトプットとして残るものを作るプロセスこそが、学びの本質を変えるという考えを示しました。
さらに井上氏は、デジタルポートフォリオの重要性にも言及しました。プロジェクトの中で自分が何を担い、どのように成長したかを可視化する仕組みがあれば、アーティストがポートフォリオを持つように、学生も学びのプロセスを証明できる。AI時代にはアプリやデジタル作品が容易に作れるようになるからこそ、その過程をデジタルポートフォリオで記録していくことが、新しい評価のあり方につながると述べました。
「接続せよ」——北島氏の提言
北島氏は、井上氏のSTEAM教育(主に中高の探究学習)と大庭教授のソーシャルインパクト事業(大学の国際教育)が同じ文部科学省の事業でありながら十分に接続されていない現状に対し、「同じ精神性で日本の教育を前に進めようとしているのに、なぜ即接続しないのか。非常にもったいない」と率直に指摘。「今日はまさに接続しに来ました。皆さんとクロスオーバーしに参りました」と、このサミットの意義を改めて示しました。
また、ソーシャルインパクト事業におけるテーマ設定の質の高さにも触れ、「大学が設計しているPBLにしてはテーマがいい。研究的には意義があっても受益者が見えにくいケースが多い中、双方にメリットが感じられるプロジェクトが多い」と評価しました。
5. まとめ——「現場」と「知」をつなぐ場として
第2章となる今回の対面サミットは、登壇者と来場者との間で真摯な質疑応答が生まれるなど「生の接続」が生まれる場となりました。教育界と産業界の間に横たわる「言葉の壁」「スピードの壁」「地域の壁」——これらの課題が浮き彫りになると同時に、それを乗り越えるためのヒントがいくつも示された濃密な2時間でした。
本サミットで見えた3つのキーポイント:
- 知の総和を守るために:少子化時代に大学を減らすのではなく、教育リソースの共有・国際人材の循環・質の向上を三位一体で推進するJV-Campusの役割。
- 「やらされ探究」からの脱却:ポスター作成で終わらない、実社会の課題に企業・地域と連携して取り組む探究学習の重要性。デジタルポートフォリオによるプロセスの可視化。
- セクターを超えた「接続」:同じ志を持つ教育と産業の取り組みが分断されたまま進むのではなく、クロスオーバーすることで初めて生まれるインパクトの可能性。
JV-Campusクロスオーバーイノベーションは、まさに「教室の外側にある現場から生まれる真のソーシャルインパクト」を、産業界・教育界・自治体の垣根を越えて追求し続ける挑戦です。今後の展開にもぜひご注目ください。
■ イベント概要
| 名称 | 2025 JV-Campus クロスオーバーイノベーション Vol.2 「未来を拓く 教育×ビジネス 共創サミット」 |
| 日時 | 2026年2月20日(金)15:00〜17:00 |
| 会場 | 立命館東京キャンパス(東京都千代田区丸の内1-7-12 サピアタワー8F) |
| 主催 | JV-Campusプロジェクト / 筑波大学 |
| モデレーター | 北島大器 氏(株式会社エムエスディ) |
| 登壇者 | 大庭良介 氏(筑波大学教育推進部 教授 / JV-Campusプロジェクトリーダー) 井上祐巳梨 氏(一般社団法人STEAM JAPAN 代表理事 / 株式会社Barbara Pool 代表取締役) 吉田圭造 氏(デロイトトーマツ グループ マネージングディレクター) |
| 参加費 | 無料 |
▶ イベント特設ページ:https://jv-campus-info.org/crossover-innovation-2025
▶ JV-Campus公式サイト:https://www.jv-campus.org/