教育システム情報学会(於早稲田大学)

論文紹介:Open Badges 2.0/3.0に対応したクレデンシャル発行システムのJV-Campusへの組み込み

論文紹介|PAPER

本記事は、2025年8月30日(土)~9月1日(月)に早稲田大学 早稲田キャンパスで開催された「第50回教育システム情報学会(JSiSE)全国大会」での発表論文「Open Badges 2.0/3.0に対応したクレデンシャル発行システムのJV-Campusへの組み込み」(発表番号 D2-1)を紹介するものである。

以下では論文の概要と著者情報の掲載、および内容を理解するための主要な用語を整理している。

本論文の全文は、下記「論文PDF」欄のリンク先から入手可能となっている。

01

概要

学位よりも小さな単位の学修成果を証明するマイクロクレデンシャルは国内外で関心を集めているが、発行された証明を機関や国境を越えてどのように流通させ、社会のなかでどう価値づけるかについては依然として検討の途上にある。

日本の高等教育機関のオンライン教育コンテンツを国内外に発信するJV-Campusにおいても、掲載コンテンツに対する学習証明をどのように発行するかが課題となっていた。

こうしたなか、教育システム情報学会 第50回全国大会で、学習活動の完了に応じてデジタルバッジを自動的に発行するシステムについて報告する論文が発表された。デジタルバッジはOpen Badges 2.0/3.0の仕様に準拠しており、本システムはJV-Campus上のオンプレミス環境に構築されている。

柳川信(筑波大学国際局国際室)と讃岐勝(筑波大学医学医療系)は、学習管理システム(LMS)であるMoodleと、バッジの発行・管理基盤であるKnowledgeDeliver Skill+を、メッセージ指向ミドルウェアのRabbitMQを介して連携させた。学習活動の完了が検出されると、対象となるユーザやコース、バッジの情報を含むメッセージが送られ、発行処理が非同期に行われる。主要なコンポーネントはいずれもオンプレミス環境に置かれており、著者らはその理由として、参画機関ごとの制度設計や運用ポリシーへの対応と、学習者の個人情報の取り扱いを挙げている。

著者らは、この構成により、学習活動の完了からバッジの発行・検証までの一連の処理を非同期かつ高信頼で実現できることを確認したとしている。学習の場とバッジ発行基盤との疎結合を保ちながら、リアルタイム性と耐障害性を両立できる構成であり、他のLMSや発行基盤への拡張・応用という点でも有効であると考えられるという。

一方で、運用面での課題も示されている。現在発行されているバッジの多くは発行そのものが目的化しており、第三者がその価値を判断することは難しい。Verifiable Credentials(VC)などの技術は真正性や改ざん耐性の担保には有効である一方、バッジの社会的な評価や信頼性の判断には、制度的・社会的な枠組みの整備が必要であると論じている。今後はこの技術的基盤を活かしながらJV-Campusでの運用を継続し、効果を検証していく必要があるとしている。

 

大会情報

大会名
第50回 教育システム情報学会 全国大会
主催
一般社団法人 教育システム情報学会(共催:早稲田大学人間科学学術院)
会期
2025年8月30日(土)~9月1日(月)
会場
早稲田大学 早稲田キャンパス(対面形式)
発表番号
D2-1

キーワード

02

論文PDF

PAPER

Open Badges 2.0/3.0に対応したクレデンシャル発行システムのJV-Campusへの組み込み

Integration of an Open Badges 2.0/3.0 Credential Issuance System into JV-Campus

柳川 信(筑波大学)、讃岐 勝(筑波大学)/教育システム情報学会 JSiSE2025 第50回全国大会

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著者紹介

柳川 信
YANAGAWA Makoto

筑波大学 国際局国際室 助教

JV-Campus連携室 副室長

研究者情報(TRIOS)

讃岐 勝
SANUKI Masaru

筑波大学 医学医療系 准教授

附属病院 医療情報部長(診療教授)

学術情報メディアセンター(協力教員)

JV-Campus事業機構 アドバイザー

研究者情報(TRIOS)

04

読解補助のための用語集(JV-Campus事務局作成)

論文中に登場する主な用語を整理した。なお、この用語集は論文本文に含まれるものではない。

用語
説明
JV-Campus
Japan Virtual Campus
日本の高等教育の国際的な展開や教育リソースの共有を目的とするオンライン教育プラットフォーム。国内外に教育コンテンツや学修機会を提供し、大学・教育機関・企業等が参画している。2022年3月10日にパイロット事業を開始した。
Open Badges(OB)
学修成果、スキル、資格、コンピテンシー等をデジタルに記述・共有・検証するための国際的な技術仕様。発行者、取得者、達成内容、取得基準、エビデンス等のメタデータを扱うことができる。1EdTech Consortiumが策定・維持している。
Open Badges 2.0
Open Badgesの第2世代仕様。バッジ情報をJSON-LDで記述し、Web上で公開する方式や暗号学的に署名する方式を利用できる。また、バッジ情報をPNGまたはSVG画像に埋め込む「Baking」により、画像ファイルとして携行・共有することもできる。現在も既存のバッジ発行・流通環境で利用されている。
Open Badges 3.0
1EdTechが2024年5月27日にFinal Releaseを公開したOpen Badgesの現行世代の仕様。Verifiable Credentials(VC)のデータモデルとの整合を強化し、発行されたバッジを暗号学的な証明付きのVerifiable Credentialとして扱える。DIDを識別子として利用することも可能だが、DIDの利用は必須ではない。なお、3.0でもPNGやSVGへのBakingは引き続き仕様に含まれている。
Verifiable Credentials(VC)
検証可能な資格情報
W3Cが標準化する、資格・学修成果・属性等の主張を機械可読かつ暗号学的に検証可能な形で表現するためのデータモデル。暗号学的証明を用いることで、発行後に内容が改ざんされていないことや、所定の検証鍵に対応する主体によって発行されたことを確認できる。学位、資格、証明書等のデジタル流通に利用できる。
W3C
World Wide Web Consortium
Web技術の相互運用性を支える国際的な標準化団体。Verifiable Credentials、Decentralized Identifiers(DID)、JSON-LDなどのWeb標準を策定している。
分散型ID(DID)
Decentralized Identifier
特定の中央集権的なIDレジストリに依存せずに利用できる識別子の仕組み。DIDは人、組織、機器等を識別でき、DID Documentを通じて公開鍵などの検証情報を取得できる。DIDの管理主体をDID Controllerという。VCやOpen Badges 3.0で発行者や取得者等の識別子として利用できるが、利用は必須ではない。
JSON-LD
JSONを用いてLinked Dataを記述するためのW3C標準のデータ形式。@context等を利用してデータ項目の意味をIRIと関連付け、異なるシステム間でもデータの意味を解釈しやすくする。Open Badges 2.0ではバッジ情報自体がJSON-LDとして表現され、必要に応じてPNGやSVGにBakingすることもできる。
Moodle
世界的に利用されているオープンソースの学習管理システム(LMS)。教材配信、受講管理、評定、修了管理等の機能を持ち、プラグインや外部システムとの連携による機能拡張が可能。本システムでは、学習・修了情報を基にバッジ発行処理を開始する起点として利用する。
LMS
Learning Management System
学習管理システム。教材の配信、受講者の登録、学習進捗、成績、修了状況等を一元的に管理するシステム。
RabbitMQ
オープンソースのメッセージング/ストリーミングブローカー。システム間のメッセージを仲介し、キューイング、ルーティング、配信確認等を行うことで、システム間連携の疎結合化や非同期処理、安定したメッセージ配送を実現する。
メッセージ指向ミドルウェア
システム間の情報伝達をメッセージ単位で仲介するミドルウェア。送信側と受信側を直接的な処理依存から分離し、処理タイミングや障害の影響を分離しやすくする。RabbitMQなどがこれに該当する。
疎結合/非同期処理
システム同士の依存関係を小さく保つ設計を「疎結合」、要求した処理の完了を待たずに後続処理を進められる方式を「非同期処理」という。これらを組み合わせることで、システムの応答性、可用性、拡張性、障害分離性を高めることができる。
KnowledgeDeliver Skill+
株式会社デジタル・ナレッジが提供するスキルマネジメントおよびデジタルバッジ発行・管理基盤。Open Badges 2.0およびOpen Badges 3.0(VC)に準拠したバッジの作成・発行に対応し、取得したバッジの管理等を行うことができる。
オンプレミス
クラウド事業者が提供する共用サービスとして利用するのではなく、自組織が管理するサーバやデータセンター等の環境にシステムを設置・運用する形態。システム構成、データ保存場所、アクセス制御等を自組織の管理下に置きやすい。
シングルサインオン(SSO)
一度の認証により、連携する複数のシステムを再認証せずに利用できる仕組み。本システムでは、Moodleからバッジ発行・管理基盤等へ遷移する際の認証連携に用いる。
アサーションサーバ
主としてOpen Badges 2.0において、取得者に発行されたバッジのAssertion(誰に、どのバッジが発行されたか等の情報)をWeb上で公開し、検証者から参照できるようにするサーバ。第三者は公開されたAssertionや関連情報を参照してバッジを検証する。Open Badges 3.0ではVCと暗号学的証明を中心とした検証方式が導入されているため、必ずしも同様のアサーションサーバを必要としない。
Verifiable Data Registry(VDR)
DIDやDID Document等を登録・解決するために利用される検証可能なデータ基盤の総称。分散台帳、分散ファイルシステム、データベース、P2Pネットワーク等、さまざまな技術で実装できる。DID Documentを介して公開鍵等の検証情報を取得する際などに利用される。VDR自体が発行者の社会的・制度的な正当性を保証するものではない。
Hyperledger Indy
分散型IDや検証可能なデジタル資格情報の利用を想定して開発された、パーミッション型分散台帳技術を中心とするオープンソースプロジェクト。DIDや公開鍵等の検証情報を扱うVDRとして利用できる。本システムで採用する場合は、DIDの解決や検証に必要な公開情報を管理・参照する基盤として位置付ける。
マイクロクレデンシャル(MC)
特定の分野や対象に焦点を当てた学修成果を記録・証明する仕組み。明確に定義された学修成果や基準に基づいて評価され、一定の質保証を伴うことが求められる。デジタルバッジ等を利用することで、学修成果を電子的に証明・共有することができる。
マイクロクレデンシャル共同WG
大学の国際化促進フォーラム、Japan Virtual Campus運営委員会(JV-Campus)、一般社団法人日本オープンオンライン教育推進協議会(JMOOC)の3団体合同により、2023年8月18日に設立されたワーキンググループ。マイクロクレデンシャルのフレームワーク、共通記述項目、デジタル証明のためのガイドライン等を検討・策定し、国内外での相互運用や普及を進めている。
出典

柳川信, 讃岐勝「Open Badges 2.0/3.0に対応したクレデンシャル発行システムのJV-Campusへの組み込み」教育システム情報学会 第50回全国大会講演論文集, D2-1, pp.123-124, 2025年.
https://www.jsise.org/taikai/2025/program/contents/pdf/D2-1.pdf

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