
分野 | 医学医療・健康
生命科学・分子医学の基礎
- セントラルドグマ
- 細胞シグナル伝達
- ゲノムとエピジェネティクス
- 分子標的
- ホメオスタシス
本講義は、大学1〜2年生レベルを対象に、生命現象の原理から医学応用までを体系的に学ぶ全10回のコースです。前半では、DNAの複製・転写・翻訳といったセントラルドグマやタンパク質の機能など、分子生物学の核心的基礎を固めます。中盤以降はこれらを基盤として、免疫システム、細胞周期、シグナル伝達などの細胞機能に加え、がんの分子メカニズム、ゲノム編集、代謝疾患(糖尿病・肥満)といった現代医療の重要トピックを網羅的に扱います。生命科学の基礎理論と臨床医学の課題を論理的に結びつけ、分子レベルの視点から疾患を理解する科学的思考力を養うことを目的としています。
Content/学習内容
コース概要
概要: 本講義は、大学1〜2年生レベルを対象に、生命現象の原理から医学応用までを体系的に学ぶ全10回のコースです。前半では、DNAの複製・転写・翻訳といったセントラルドグマやタンパク質の機能など、分子生物学の核心的基礎を固めます。中盤以降はこれらを基盤として、免疫システム、細胞周期、シグナル伝達などの細胞機能に加え、がんの分子メカニズム、ゲノム編集、代謝疾患(糖尿病・肥満)といった現代医療の重要トピックを網羅的に扱います。生命科学の基礎理論と臨床医学の課題を論理的に結びつけ、分子レベルの視点から疾患を理解する科学的思考力を養うことを目的としています。
対象: 大学1~2年生の基礎レベルの定着を目指す学生
コースレベル: 100 入門コース, JEQF Level 6 (https://niadqe.jp/information/higher-education-degree-2/) に相当
学習カテゴリー: M 医学・健康
構成: 1授業「(講義動画15分+小テスト10分」×3」x10回=750分(12.5時間)
評価の方法: 学修成果で記載された内容について以下の要件を満たすことでの達成したと判断する。①講義動画をすべて視聴すること。②講義動画(15分)ごとに課される多肢選択問題に全問正解すること
質保証: 地球規模課題学位プログラム運営委員会における点検
証明書: 筑波大学よりCertificate「生命科学・分子医学の基礎」オープンバッジを発行する
学修成果目標:
- セントラルドグマと遺伝子制御の理解; DNAの複製、転写、翻訳という遺伝情報の流れ(セントラルドグマ)を分子レベルで理解し、エピジェネティクスや転写因子による遺伝子発現制御の仕組みを把握する。
- 細胞機能とエネルギー代謝の理解; 細胞呼吸によるATP産生のメカニズムや、細胞膜を通じた物質輸送、および細胞間シグナル伝達の基本原理を理解する。
- 免疫システムと感染症対策の理解; 自然免疫と獲得免疫の役割分担を区別し、ワクチンの作用機序やウイルスの変異による免疫逃避のメカニズムを理解する。
- がんの分子メカニズムと治療戦略の理解; 細胞周期の制御破綻(がん遺伝子・がん抑制遺伝子の変異)による発がんプロセスと、分子標的薬や免疫チェックポイント阻害剤の薬理学的原理を理解する。
- 代謝疾患の病態生理の理解; 肥満が引き起こす脂肪組織の慢性炎症や細胞ストレス(小胞体・酸化ストレス)が、インスリン抵抗性やメタボリックシンドロームにつながる分子連関を理解する。
第1回:ゲノムとセントラルドグマの基本:遺伝情報の保存と発現(DNAからRNAへ)①
Part.1: 核酸の化学構造とDNA複製
- ヌクレオチドの構造(糖・リン酸・塩基)と二重らせん構造の安定性。
- ゲノムとは何か(ヒトゲノム30億塩基対の概要)。
- 半保存的複製のメカニズム(ヘリカーゼ、DNAポリメラーゼの働き)。
Part.2: 転写:DNAからRNAへ
- RNAとDNAの構造的違い(ウラシルとチミン、リボースとデオキシリボース)。
- 転写のプロセス:プロモーター、RNAポリメラーゼの結合、伸長。
- セントラルドグマの基本的な情報の流れ(DNA → RNA → タンパク質)。
Part.3: 真核生物のRNAプロセシング
- 原核生物と真核生物の決定的な違い(核膜の有無)。
- 転写後修飾:5’キャップ構造とポリA尾部(mRNAの保護と輸送タグ)。
- スプライシング:イントロン(不要部分)の除去とエキソン(必要部分)の連結。
第2回:遺伝子発現制御とゲノム編集:遺伝情報の保存と発現(DNAからRNAへ)②
Part.1: 転写調節のメカニズム
- 全ての細胞が同じDNAを持つのに、なぜ違う細胞になるのか?(分化の原理)。
- 転写因子(Transcription Factors)とエンハンサーによるスイッチのON/OFF。
- オペロン説(大腸菌)から学ぶ遺伝子制御の基本モデル。
Part.2: エピジェネティクス:DNA配列によらない制御
- クロマチン構造(ヒストンとDNAの巻きつき)。
- ヒストン修飾(アセチル化は一般に転写活性化と関連し、メチル化は修飾部位や状態によって転写活性化・抑制の両方に関与する)とDNAメチル化。
- 環境が遺伝子の働きを変える仕組み。
Part.3: 遺伝子変異とゲノム編集技術
- 突然変異の種類(置換、挿入、欠失)とSNP(一塩基多型)。
- 鎌状赤血球貧血の分子メカニズム詳細。
- CRISPR-Cas9の原理:ガイドRNAとCas9タンパク質による標的切断と修復。
第3回:翻訳とタンパク質の立体構造:生命の実行部隊とエネルギー(タンパク質と代謝)①
Part.1: 翻訳:遺伝暗号の解読
- コドン表の読み方(トリプレット説)。
- リボソーム(工場)とtRNA(運び屋)の構造と機能。
- ペプチド結合の形成とポリペプチド鎖の伸長。
Part.2: タンパク質の階層構造
- アミノ酸20種類の性質(親水性、疎水性、酸性、塩基性)。
- 一次構造から四次構造(αヘリックス、βシートなど)。
- 「構造が決まれば機能が決まる」原理(酵素の鍵と鍵穴モデル)。
Part.3: 酵素反応と消化の生化学
- 酵素の触媒作用(活性化エネルギーの低下)。
- 基質特異性と最適pH・温度。
- 消化酵素(アミラーゼ、ペプシン、リパーゼ)による高分子の加水分解反応。
第4回:エネルギー代謝とニュートリゲノミクス:翻訳とタンパク質の立体構造:生命の実行部隊とエネルギー(タンパク質と代謝)②
Part.1: 細胞のエネルギー通貨 ATP
- ATP(アデノシン三リン酸)の高エネルギーリン酸結合。
- 細胞呼吸の全体像:解糖系(細胞質)、クエン酸回路(ミトコンドリア)、電子伝達系。
- なぜ酸素が必要なのか?(酸化的リン酸化の仕組み)。
Part.2: 膜輸送と栄養素の取り込み
- 細胞膜の構造(リン脂質二重層と流動モザイクモデル)。
- 受動輸送(拡散・チャネル)と能動輸送(ポンプ・ATP利用)。
- グルコーストランスポーター(GLUT)と消化管からの吸収メカニズム。
Part.3: 核内受容体とニュートリゲノミクス
- 疎水性シグナル(脂溶性ビタミン、脂肪酸、ステロイドホルモン)の細胞内への透過。
- 核内受容体スーパーファミリー(PPARsなど)の働き。
- 栄栄養素や脂溶性分子が核内受容体に結合することで転写因子活性を調節し、代謝遺伝子の発現を制御する仕組み。
第5回:病原体と自然免疫:細胞の防衛システム(微生物と免疫)①
Part.1: 原核生物(細菌)とウイルス
- 原核細胞の構造(細胞壁、環状DNA、プラスミド)。
- ウイルスの基本構造(カプシド、エンベロープ、核酸)。
- ウイルスの生活環(吸着、侵入、脱殻、合成、放出)。
Part.2: 自然免疫システム
- 物理的・化学的防御(皮膚、粘膜、リゾチーム)。
- 食細胞(マクロファージ、好中球、樹状細胞)の働き。
- パターン認識受容体(TLRなど)による異物感知と炎症反応の開始。
Part.3: 炎症とサイトカイン
- 炎症の4徴候(発赤、熱感、腫脹、疼痛)の生理学的意義。
- 炎症性サイトカイン(IL-1, IL-6, TNF-α)による情報伝達。
- 血管透過性の亢進と白血球の遊走。
第6回:獲得免疫とワクチン・変異:細胞の防衛システム(微生物と免疫)②
Part.1: 獲得免疫:T細胞と細胞性免疫
- 抗原提示の仕組み(MHC分子と樹状細胞)。
- ヘルパーT細胞(司令塔)とキラーT細胞(殺し屋)の分化と活性化。
- 自己・非自己の識別(胸腺での選別)と自己免疫疾患。
Part.2: 獲得免疫:B細胞と体液性免疫
- B細胞の活性化と形質細胞への分化。
- 抗体(免疫グロブリン)の構造(可変部と定常部)とクラス(IgG, IgM, IgA等)。
- 抗原抗体反応(中和、オプソニン化)と免疫記憶。
Part.3: ワクチン原理とウイルス変異
- ワクチンの種類(生、不活化、コンポーネント、mRNA)とその作用機序。
- mRNAワクチンの分子メカニズム(宿主細胞でのタンパク質合成)。
- ウイルスの変異メカニズム(RNAポリメラーゼのエラー率)と抗原ドリフト。
第7回:細胞分裂と細胞周期:細胞周期の制御と破綻(がん生物学)①
Part.1: 細胞周期(Cell Cycle)の進行
- 間期(G1, S, G2)と分裂期(M期)の詳細。
- DNA複製(S期)と染色体の凝縮・分配(M期)。
- G0期(静止期)の意義と細胞の寿命。
Part.2: 細胞周期の制御システム
- サイクリンとCDK(サイクリン依存性キナーゼ)による制御。
- チェックポイント機構(G1/S、G2/M、M期チェックポイント)。
- 異常検知時の細胞周期停止メカニズム。
Part.3: 細胞死:アポトーシス
- プログラムされた細胞死(アポトーシス)と壊死(ネクローシス)の違い。
- カスパーゼカスケードによる細胞解体。
- ミトコンドリア経路とデス受容体経路。
第8回:がん化のメカニズムと分子標的:細胞周期の制御と破綻(がん生物学)②
Part.1: がん遺伝子とがん抑制遺伝子
- がん原遺伝子(Proto-oncogene)の役割と変異(Ras, Mycなど)。
- がん抑制遺伝子(Tumor suppressor gene)の役割と「2ヒット説」(Rb, p53)。
- p53タンパク質:「ゲノムの守護神」としての機能。
Part.2: がん細胞の特性(Hallmarks of Cancer)
- 無制限な増殖、不死化(テロメラーゼ活性)。
- 血管新生(VEGF分泌)と転移のメカニズム(上皮間葉転換 EMT)。
- ワールブルグ効果(がん細胞が酸素存在下でも解糖系を亢進させる代謝特性)。
Part.3: 分子標的薬と免疫チェックポイント阻害剤
- チロシンキナーゼ阻害剤の原理(鍵穴を塞ぐ)。
- 免疫チェックポイント分子(PD-1/PD-L1)の生理的役割。
- 免疫逃避機構の解除によるがん治療のメカニズム。
第9回:シグナル伝達の基本原理:細胞間シグナル伝達と内分泌(肥満と生活習慣病)①
Part.1: 細胞間情報伝達の様式
- 内分泌(ホルモン)、パラクリン、オートクリン、接触依存的伝達。
- 受容体(レセプター)とリガンドの特異的結合。
- 親水性シグナル(膜受容体)と疎水性シグナル(核内受容体)の違い。
Part.2: 膜受容体とシグナル伝達経路
- Gタンパク質共役型受容体(GPCR)とセカンドメッセンジャー(cAMP)。
- チロシンキナーゼ型受容体(RTK)とリン酸化カスケード。
- シグナルの増幅(Amplification)メカニズム。
Part.3: 血糖調節とインスリンシグナル
- インスリンとグルカゴンによる血糖恒常性維持。
- インスリン受容体からGLUT4(グルコース輸送体)膜移動までの経路。
- 「鍵と鍵穴」で理解するインスリン作用。
第10回:肥満の病態生理と慢性炎症:細胞間シグナル伝達と内分泌(肥満と生活習慣病)②
Part.1: 脂肪組織の生理学とアディポサイトカイン
- 白色脂肪細胞(貯蔵)と褐色脂肪細胞(熱産生)の違い。
- レプチンの分泌と視床下部への作用(食欲抑制・代謝亢進)。
- アディポネクチン(善玉)とTNF-α(悪玉)のバランス。
Part.2: インスリン抵抗性と慢性炎症
- 肥大化脂肪細胞におけるマクロファージ浸潤と炎症惹起。
- 炎症性シグナル(JNK, IKK)によるインスリン受容体基質の阻害(セリンリン酸化)。
- なぜ「炎症」が「糖尿病」を引き起こすのか?(分子リンク)。
- メタボリックドミノの概念 。
Part.3: ストレス応答とホメオスタシスの破綻
- 小胞体ストレス(ER Stress)と肥満の関係。
- 酸化ストレス(活性酸素種 ROS)による細胞障害。
- メタボリックシンドロームの分子基盤(共通土壌としての炎症)。
Staff/スタッフ
-
- 責任者
- 講師
大庭 良介筑波大学教授
Competency/コンピテンシー
- リテラシー
- 論理的思考力
専門コンピテンシー
Information/その他の情報
教材・参考文献
Essential細胞生物学(原書第5版)(南江堂 (2021/7/13))
Contact/お問合せ先
責任教員・連絡先:大庭良介
授業担当教員:大庭良介




