クロスオーバーイノベーション(於大手町)

企業の事業を学びに変える――「JV-Campus クロスオーバーイノベーション」東京・大手町で開催

2024年3月28日(木)、東京・大手町の3×3 Lab Futureにて、「JV-Campus 〜クロスオーバーイノベーション〜」が開催された。起業家、事業会社、自治体、教育機関などから55名が参加。企業のプロジェクトをもとに制作された教育コンテンツの発表と課題解決型ワークショップを通じて、産業界と高等教育がそれぞれの知見を持ち寄り、新たな学びの可能性を探る機会となった。企業の事業や実践知が「教材」へと姿を変える—その可能性が具体的な形として示された一日を振り返る。

JV-Campus クロスオーバーイノベーション 会場風景

01

「広報」ではなく「教材」に

企業が自らの取り組みを社会に伝える手段としては、これまで広告、コーポレートサイト、統合報告書など、企業側が情報を整理し、発信する形が中心だった。本イベントが示したのは、それとは異なるアプローチである。企業が実際に取り組んでいる事業やプロジェクトそのものを、大学の教育プラットフォームで学ぶことのできる教育コンテンツへと展開するという方法だ。

この違いは、単なる発信形式の違いにとどまらない。教育コンテンツとして成立させるためには、成果だけでなく、背景にある社会課題や技術、事業を進める上での論点や関係者の視点まで含めて整理する必要がある。その過程を通じて、企業の取り組みは「伝える対象」から「ともに考え、学ぶ題材」へと変わっていく。当日登壇した4社の報告からも、そうした共通点が浮かび上がった。

02

多様なステークホルダーとの接続が、プラットフォームの価値を広げる

オールジャパン体制で結成されたJapan Virtual Campus(JV-Campus)は、日本発のオンライングローバル教育プラットフォームであり、国内外に向けた日本の高等教育のポータルとして位置づけられている。開会にあたり、大庭良介教授(大学の国際化促進フォーラム JV-Campus運営委員会 委員長/筑波大学 JV-Campusプロジェクトリーダー)は、大学間の連携にとどまらず、教育機関、自治体、民間企業など多様な主体との接点を広げることが、JV-Campusの新たな可能性につながるとの展望を示した。

KEY POINTS
企業の事業活動を、広報物ではなく学習コンテンツとして制作する——JV-Campusが企業に開いた新しい参画のかたち
コンテンツは日英両表記で制作されるため、国内の学生と海外の学習者に同時に届く
制作の過程そのものが、生産者・自治体・取引先といったステークホルダーとの関係を捉え直し、新たな連携を生み出す契機となる

55名
参加者数
4社
プロジェクト発表企業
3テーマ
課題解決型
ワークショップ

03

4つの事業、4つの教材——参画企業プロジェクト発表

企業のプロジェクトを基に制作された教育コンテンツについて、参画企業から代表者4名が登壇した。

微細藻類の可能性——研究開発20年から、宇宙での発酵へ

ユーグレナは、一般にミドリムシと呼ばれる微細藻類の学名である。藻類でありながら鞭毛で自ら移動し、植物と動物の双方の性質を併せ持つ。この生物で世の中の困りごとを解決できないかという問いのもと、研究開発は20年にわたって続けられてきた。応用領域をさらに広げる構想の一つとして挙げられたのが、宇宙空間での発酵への挑戦である(株式会社ユーグレナ 共同創業者・鈴木健吾氏)。

2023年12月には津南醸造株式会社の代表取締役への就任を経て、酒造りとサイエンスの融合による価値づくりが進められている。その一つが、藻類を用いた「グリーン発酵」によって発酵の進行パターンに変化を与える試みだ。日本酒の製造工程でユーグレナ粉末を添加したところ、AIを活用した検査において、香りや甘みに相当する「華やかさ」が抑えられる一方、米の旨みや風味を示す「ふくよかさ」が増し、全体としてすっきりした酒質になるという結果が得られたという。

JV-Campusのコンテンツが日英両表記で制作されることから、ユーグレナをめぐる新しい取り組みを世界に向けて認知させる回路としての期待も語られた。制作に関わること自体が学び直しの機会となり、その学びをそのまま学習者に渡せる点も魅力に挙げられている。会場との意見交換では、新たな視点による酒づくりが町おこしにつながる、世界への情報発信が地域の活性化に結びつくといった声が参加者から寄せられた。

大豆から見た、日本の食のプレゼンス

兼松ソイテック株式会社は、兼松グループに属する専門商社である。日本の伝統的な食品の原料である大豆を中心に、豆類・穀物にかかわる製品を扱う。社名は大豆と技術を合わせた造語に由来し、大豆に関する専門的・技術的なノウハウの蓄積が事業の基盤になっている。

コンテンツ制作に取り組んだ動機として挙げられたのは二つ。自社の企業活動を若い世代に伝えること、そして食という領域で日本のプレゼンスを世界に発信することである(同社 代表取締役・青山雅寿氏)。

制作の過程では、原料の生産者である有機農家から、味噌・納豆メーカーの経営層まで、サプライチェーン上のステークホルダーに取材する機会が生まれた。それぞれが抱く「こんなことに挑戦したい」という構想に触れたことが、自社にとっての学びになったという。この制作を通じて形になったステークホルダー同士の連携を土台に、共同で世界を目指す展開への期待も示された。

ガラスの原料は砂——素材メーカーが描く循環

板ガラスを製造する世界的な素材メーカーであるAGC株式会社は、長野県諏訪市において、ガラスの素材循環とリサイクルの社会実装を目標とした実証実験を進めている。企業・行政・教育機関・市民を巻き込んだ座組みが特徴だ。ガラスの原料である砂も有限な資源であり、サステナビリティの観点から素材メーカーの役割を捉え直し、地球と素材の橋渡しを担う——それが取り組みの出発点として説明された(同社 技術本部企画部協創推進グループ マネージャー・中川浩司氏)。

循環の要件として挙げられたのは、エンドユーザーや回収事業者との接続である。素材メーカーが中間に入って知見を提供することで、直線的な流れを循環へと閉じていく——その形はハート型になぞらえて語られた。コンテンツでは、諏訪市以外の各地の砂から作られたガラスも取り上げている。砂は土地によって成分が異なり、その土地ならではの色のガラスが生まれる。地域への愛着を呼び起こす切り口になりうるという。

ナラティブというメディアコンテンツ制作手法についても言及があった。ホームページやCMでは表現しきれない素材メーカーの役割を、国内外に向けて発信できる点が評価されている。制作を進める中でステークホルダーとのさらなるコラボレーションが生まれ、新たな価値の創造につながっているという。意見交換では、プロジェクトのメリットを問う質問に対し、ガラスをめぐる資源循環モデルの構築につながり、資源確保の面からも有効であると説明された。

備蓄を「持たない」——フードロスのない防災備蓄へ

BELLグループのmilabは、官民が連携して自治体の防災備蓄を最適化することを目指している。同社が牽引する「広域連携・みなし備蓄」プロジェクトでは、流通小売のような民間企業に通常より多めの商品在庫を確保してもらい、災害時にその在庫を防災用の備蓄として自治体へ供給する。備蓄量は自治体と企業の間で取り決め、企業が備蓄を行う費用には、自治体がこれまで備蓄購入に充ててきた予算をあてる。単一の自治体だけでなく複数の自治体とも連携し、備蓄品の購入計画から在庫管理までを一貫して支援する体制を整えている。

JV-Campusのコンテンツでは、北海道余市町を中心とする北後志地域における「広域連携・みなし備蓄」の実践が紹介されている。コンテンツを通じて防災備蓄の課題を広く共有し、制作を通じて関係を深めたステークホルダーとともに、日本の地域防災にイノベーションを起こしてフードロスのない新しい備蓄体制をつくる——そうした展望が語られた(同社 代表取締役社長・狩野貴史氏)。避難所の生活環境の改善も併せて目標に掲げられている。

参加者からは仕組みの利点について質問があり、民間企業が持つ流通網を活用し、小売業が備蓄業務を代替すること自体に意義があると説明された。

04

3つのテーブル——課題解決型ワークショップ

プログラムの最後では、参加者が希望するテーマごとにグループへ分かれる課題解決型ワークショップが実施された。専門や業界の壁をいったん外して、課題解決に向けた考え方そのものを持ち寄る形で意見が交わされた。

① Social Impact Connect

地域の持続化のために、少子高齢化・人口減少に挑む。

② Edu Power Hub

特許や研究結果に縛られない、実践的で新しい産学連携の推進。

③ Global Gateway

日本発、世界の課題と挑戦。

企業の活動を教育コンテンツ化することで理解と周知を深め、多様なステークホルダーとの連携を進めていく——本イベントが掲げた方向性を、参加者それぞれが自らの現場に引き寄せて検討する時間となった。

05

企業活動を教育コンテンツに——その実例紹介

この日発表されたプロジェクトは、その後、JV-Campus上の教育コンテンツとして公開され、現在も実際にアクセスすることができる。事業の一過性の紹介にとどまらず、継続的に参照し、学ぶことのできる教材として残っていく。本イベントは、企業の実践を教育コンテンツへと転換し、社会に届けるという新たな経路を、具体的な形で示す機会となった。

本イベントで見えたキーポイント
1
事業は教材になる
企業が取り組む課題の背景や構造、事業を進める過程まで含めて伝えることで、その取り組みは単なる広報を超え、学びの題材へと展開できる。日英両言語で発信することで、国内の学生だけでなく、海外の学習者にも届けることができる。
2
制作過程が関係の発展に寄与
4社の報告に共通していたのは、取材や制作の過程を通じて、生産者・自治体・関係事業者との関係が深まり、新たな連携へとつながっていった点である。コンテンツは成果物であると同時に、関係者をつなぎ、新たな協働を生み出す契機にもなっていた

関連情報

本イベントの内容は、JV-Campusニュースレター 2024年4月にも掲載しています。

開催概要

名称
JV-Campus 〜クロスオーバーイノベーション〜
日時
2024年3月28日(木)
会場
3×3 Lab Future(東京都千代田区大手町)
主催
JV-Campus事務局
登壇者
大庭良介 教授(大学の国際化促進フォーラム JV-Campus運営委員会 委員長/筑波大学 JV-Campusプロジェクトリーダー)
鈴木健吾 氏(株式会社ユーグレナ 共同創業者/津南醸造株式会社 代表取締役)
青山雅寿 氏(兼松ソイテック株式会社 代表取締役)
中川浩司 氏(AGC株式会社 技術本部企画部協創推進グループ マネージャー)
狩野貴史 氏(BELLグループ milab 代表取締役社長)
参加者
55名(教育機関・起業家・産業界・自治体ほか)
協力
一般社団法人大丸有環境共生型まちづくり推進協会(エコッツェリア協会)/3×3 Lab Future/読売新聞社/株式会社エムエスディ/株式会社ラーニング・イニシアティブ

JV-Campusクロスオーバーイノベーションは、教室の外に広がる現場から生まれる実践的なソーシャルインパクトを、産業界・教育界・自治体の垣根を越えて追求する挑戦です。今後の展開にもぜひご注目ください。

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