指導力を磨き、未来を支える
『ビジネス日本語ティーチング入門講座(オンデマンド講座)』

陳 秀茵(チン シュウイン)先生
東洋大学 国際教育センター 講師
神戸大学大学院博士課程修了。ドイツハンブルク大学、神戸大学のアシスタントを経て、日本経済大学、青山学院大学などで非常勤講師および専任講師を務める。2020年より現職。
専門は日本語教育、日本語学。日本語教材の開発に携わるとともに、国内外の外国人材に向けたビジネス日本語講座を多数提供。
「ビジネス日本語ティーチング入門講座(オンデマンド講座)」(以下「ビジネス日本語ティーチング入門講座」)は、ビジネス日本語やビジネス日本語教育に関心を持つ全ての方を対象とする「ビジネス日本語の指導」に有用な専門的知識を学べる入門講座です。この講座の開発を担当し、日本語学習者としての経験もある陳秀茵先生に、開発の背景について聞きました。
「ビジネス日本語を学びたい」という声も開発の原動力に
まず、この「ビジネス日本語ティーチング入門講座」をはじめとする東洋大学のオンライン講座を担当することになったきっかけを教えてください。
陳東洋大学は、2017年に文部科学省の「留学生就職促進プログラム1) 」に採択され、その一環としてビジネス日本語講座が開講されました。初めは対面形式でしたが、2020年のコロナ禍を機にオンラインに移行しました。私が東洋大学に着任したのも2020年で、その年から講座の運営や、外部講師のコースの司会などを担当しました。その後、ビジネス日本語のオンライン講座の企画、開発にも携わり、この「ビジネス日本語ティーチング入門講座」の開発も担当させていただきました。
1) 文部科学省は2017年より「留学生就職促進プログラム」を実施し、外国人留学生の就職支援と日本での定着を促進している
「ビジネス日本語ティーチング入門講座」の特徴を教えてください。
陳この講座は、ビジネス日本語の指導に役立つ専門知識を学べる入門講座です。言語学、日本語学、日本語教育学の専門家が講師を務め、理論と実践の両面から各テーマについてわかりやすく講義を行います。オリエンテーションを含む全9回の構成です。
日本語教育に携わる現職の先生方、企業でビジネス日本語教育を行う方、日本語教育に興味持つ大学生、大学院生の方など、ビジネス日本語やその教育に関心のある方にぜひご活用いただきたい内容です。講座はオンデマンド形式で提供されているため、自分のペースで学べる柔軟な設計となっています。
この講座の開発の背景、また目的などについて説明をお願いします。
陳この講座は、ビジネス日本語教育の重要性と、その高まるニーズを背景に開発されました。ビジネス日本語や、その指導に特化した講座は実は非常に少なくて、特に海外にいらっしゃる方が、その関連資料やコンテンツを入手することはとても難しいという現状があります。この課題を解決するために構想を温めながら、東洋大学のオンライン講座で培ったノウハウを活かし、開発を目指しました。また、これまで東洋大学のビジネス日本語講座を受講された方々から、「ビジネス日本語教育を学びたい」という声をたくさんいただきまして、それも開発の原動力となりました。

現在のネットの動画のクオリティに遜色のないものを作りたい
この講座の開発でどのような役割を担われましたか。
陳私は、企画段階から責任者として携わりました。具体的に言いますと、例えば、動画教材としてのテーマと構成の検討、各講義を担当する講師の先生方の選定、そして、撮影スタジオの制作会社との調整を行いました。
開発の際、最も重視したこと、また苦労されたことがあれば教えてください。
陳開発に当たりまして、特に重視した点が3つあります。1つ目は、汎用性のあるテーマと内容です。多様な背景やルーツを持つ受講者を想定しているため、幅広いニーズに対応できるテーマと内容にしました。
2つ目は、講座の構成です。やはり、オンデマンドという特徴がありますので、受講者が飽きずに集中して学べるように工夫しました。各回では、1つのテーマを取り上げ、理論編と実践編の2部構成に分け、その前後に予習課題や復習課題、実践タスクを組み込むことで、「考える」「調べる」「伝える」といった活動に自然に取り組めるよう設計しました。
3つ目は、動画のクオリティとデザインです。と言いますのは、今、オンライン会議システムやネットの動画コンテンツのクオリティが非常に高くなっていて、それに遜色のない講義動画を作りたいなと考えました。
画面の構成、またスライドのデザインにも統一感があり、非常に見やすいと感じました。
陳そうですね。スライドの文字サイズについても制作会社の方にアドバイスをいただき、調整を重ねました。その上で、先生方にも共有させていただきました。視覚的にも聴覚的にも、こう、満足いただけるよう、動画の4K画質やオープニングの音楽・音質などについて、制作チーム内でアイデアを共有しながらプロフェッショナルな仕上がりを追求しました。大変でしたが、それがいい思い出にもなっています(笑)。
日本語の多様な文字体系と、学習者の母語との違いを意識した構成
先生が担当された第4回「外国人材のための文字・表現指導」で最も重視したことを教えてください。
陳この講義では、外国人材が日本語の「文字」と「表現」を学ぶ際の難しさを解消することを一番重視しました。特に、日本語の多様な文字体系、例えば、ひらがな、カタカナ、漢字、ローマ字などや、学習者の母語との違いを意識して内容を構成しました。その中でも、特に2点を重点的に取り上げています。
1点目は、学習者の母語の特徴に基づいた指導です。アルファベットのような表音文字を使う文化と、表語文字や表意文字を使う文化では、学習スタイルや文字の捉え方が大きく違います。その違いを踏まえ、効率的かつ効果的な指導を心がけました。
2点目は、 ICT化が進んだ現代の職場環境を意識した点です。今は、実際に職場でも、パソコンが多く使われていますので、漢字が「書ける」よりも、「読めて入力できる」スキルが求められます。そうした実務的なニーズに合わせて、それに対応できる力を育てることを目指しました。
先生の学習者としての経験は、どのように指導に役立ってますか。
陳そうですね。例えば、「〇〇人は読み書きができない」「〇〇人は会話が下手だ」といった声を耳にすることがあります。しかし、私から見ると、学習者それぞれに特徴があり、文化的背景も違います。そのため、そうした違いを理解した上で指導するのが重要だと感じています。
また、私自身もゼロレベルから日本語を学んだ経験があるため、それぞれの段階で何が大変か身をもって理解しています。その点で、学習者に深く共感できる部分が多いと感じます。

受講者数は延べ500名、国内外から実践的な学びの機会として評価
これまでどのような方がこの講座を受講されているか教えてください。
陳この講座は、これまでに延べ500名の方々に受講いただいております。 属性は、日本語教師が半数以上を占めていて、その他にも大学生、大学院生、会社員、教育機関の職員、日本語ボランティアの方々が参加されています。
国籍の内訳を見ると、日本が最も多く、中国やインドネシアがそれに続きます。また、イギリス、イタリア、インド、ウズベキスタン、スロベニア、メキシコなど、計14の国・地域からお申し込みがありました。本当に多様な背景を持つ方々に受講いただき、国際色豊かな講座になっていると感じております。
これまでの受講者からは、どのようなフィードバックがありましたか。
陳これまでの受講者からは、非常に好意的なフィードバックをいただいています。 海外の受講者からは、「母国には日本語のビジネスクラスがないため、非常に勉強になりました」というコメントが寄せられています。また、日本の教育関係者からは、「ティーチング入門という名前から想像していた以上に、幅広い分野を網羅しており、とても興味深かったです」との声があり、国内外から実践的な学びの機会として評価をいただいています。さらに、ビジネス日本語教育の需要が高まる中で、「ちょうどクラスを開くリクエストが増えているタイミングで受講できて助かりました」という声などもいただきました。
この講座を受講して、ビジネス日本語の指導を行う先生方に対して、アドバイスをお願いします。
陳この講座が、皆さまの指導や目標に少しでもお役に立てればうれしく思います。
ビジネス日本語を教えることは、学習者の成長を支え、その後のキャリアの軸となる非常に重要な役割を担っています。指導の中で時には難しさを感じることもあるかもしれませんが、学んだことを現場で実践する中で、新しい発見やご自身の成長を実感する瞬間がきっとあると思います。どうぞ自信を持って、そして楽しみながら取り組んでください。
皆さまの指導が、学習者にとってかけがえのない学びとなり、彼らが国際社会で活躍する力になることを、心から願っています。
今後の東洋大学のビジネス日本語教育講座の開講予定について教えてください。
陳はい、2025年2月と3月に、「ビジネス日本語ポイント講座」「ビジネス日本語アドバンス講座」「BJTビジネス日本語能力テスト対策講座」をオンラインで実施予定です。また、4月から8月にかけては、この「ビジネス日本語ティーチング入門講座」と、「ビジネス日本語入門」「BJTビジネス日本語能力テスト対策講座」をオンデマンド形式で提供する予定です。
申し込み情報はすべてJV-Campusで公開させていただきますので、ぜひご利用いただければと思います。

出典:東洋大学日本語講座(https://toyo-jlp.com/japanese-language)
おすすめは『就活JUMPスタート』、海外の方にも日本の就活がイメージしやすい
JV-Campusにある日本語教育コンテンツで、おすすめのものがあれば教えてください。
陳筑波大学が開発された「就活JUMPスタート」は、とても素晴らしいシステムだと感じています。日本での就職を目指す外国人留学生や日本語学習者にとって、実践的で役立つ内容が豊富だなと拝見していて思いました。日本の就職活動における特徴や準備の方法、面接のポイントを具体的に学べ、就活の全体像をつかむこともできます。もう一つ面白いと思うのは、マンガを使って事例を取り上げているところです。海外の方にも日本の就活がイメージしやすいので、日本語教師やキャリア支援を行う方にも役立つ内容だと思います。
日本語は、単なる言語ではなく、人とのつながりを深める大切なツール
最後に日本への留学、就職を目指す日本語学習者にメッセージをお願いします。
陳日本語は、単なる言語ではなく、人とのつながりを深める大切なツールです。思うようにいかないこともあるかもしれませんが、一歩ずつ挑戦することで、自分の可能性が広がります。自分のペースで学び、日本での経験を楽しんでください。
陳 秀茵先生、インタビューへのご協力ありがとうございました。